数々のショパンの素晴らしいピアノ曲の中でも、私は「ピアノソナタ 第2番」が大好きです。「なにそれ、聴いたことないわ。」と思ったあなたも絶対に知っているメロディーが入っている曲です。
この曲には葬送行進曲が入っているのです。葬送行進曲といえばアレ。と皆さんが頭に思い浮かべるだろうアレです(笑)。
ターン ターン タ ターン ターンタ ターンタ ターンタ ターン
です。(音、浮かびました?)
※浮かばなかったあなたへ↓ 初っ端からこのメロディーです。
第3楽章のテーマの一つがこの葬送行進曲なのです。この葬送行進曲がショパンのピアノソナタの楽章の1つだったって皆さん知ってました?私は知りませんでした。ショパン聴こう~♪と思ってソナタを聴いてたら、このお馴染みのメロディーが流れてきてビックリしたのを覚えています(笑)。
今日は、お気に入りの3人のピアニストの演奏を紹介しながら、この曲を聴いているとどんな気持ちになるのか、書いていこうと思います。3人とも超有名なピアニストで、特に今更紹介しなくても!という感じですが、彼らは「さすがにさすがなのだ!!」と思うので書きます(笑)。
ウラディミール・ホロヴィッツ
彼のショパンを聴いた時から、ずーーーっとショパンはホロヴィッツで!派でした。このソナタに限らず、彼のショパンはオシャレ度抜群なんですよね。でもオシャレなだけじゃなくて、パッキリとした音で弾かれる速いパッセージやクリアな和音で急に詰め寄られたりもするので、唸るんです。ギャップ萌えです。
第一楽章
最初の一音から「あ~~。上質なピアノを聴いているぅ~~。」という気持ちにさせられます。1皿1皿、全てに「参りました」と頭を垂れるレストランで食事をしているよう。音のため方、響かせ方、揺れ方、優しさ強さ。あーーー。好きだーーー!!!ってなる。もはや曲がどうこうじゃなくて「ホロヴィッツ」に酔わされているだけであるともいう(笑)。
第二楽章
出だしのパッセージが独特な形で、強調して弾きすぎたらオドロオドロしくなっちゃうし、真面目に弾いたらとんでもなくツマラナくなっちゃいそうなんだけど、そこを絶妙なリズム感と音の強弱のメリハリでドンドン引き込むところが流石。弱奏部分に入ると、もう、また、急にオシャレ。この揺れ、本当に極上なんだよなぁ♡ワインを片手に、体を揺らしながら知らない人とひと時のワルツを楽しんでいるような気持ちにさせられる。そして最初のテーマが戻ってきて「ああ、やっぱり絶妙だぁ」となる(笑)。
第三楽章
葬送行進曲は悲劇的すぎないタンタンとした演奏。タンタンといってもサラっとしてるわけじゃないよ?テンポが丁度良い…。間(ま)と言いますか何と言いますか…。足を引きずらない程度に歩く。胸に沸き上がる悲痛な思いとはうらはらに、タンタンと歩く。そんな行進。葬送行進曲が終わって一転、優しいメロディーが始まります。ここを始めて聴いたときは衝撃だったなぁ………。葬送行進曲のあとにこんなに優しく美しいメロディーが続いていたなんて………涙。です。今まで生きてきた人生を静かに振り返っているような気持になります。走馬灯です。小さい頃の思い出。ずっとここに居たい。そんなメロディ。限りなく小さな音。響きだけがそこにある。ここを聴いている時はフリーズして泣きます…。そして葬送行進曲が戻ってきて、現実に引き戻される。最初に出てきたのと同じメロディだけど…最初より、複雑な気持ちで聴くことになります。
第四楽章
蠢くなにか。この世のものではない。もうこの世ではない。ゾワっとする。
↓ホロヴィッツの演奏はこちらで
マウリツィオ・ポリーニ
速いパッセージも大理石のような音で弾いちゃうポリーニも大好きなピアニストです。彼のブラームスとかベートーベンはよく聴いていたのですがショパンはあまり聴いてなかったんですよね。(なんせホロヴィッツのショパンに心酔してたから)
でも、今回聴いてみて、さすがにポリーニなのだ!と脱帽しました。ホロヴィッツの世界観とは全く違う……♡
第一楽章
出だし、悲劇的な音色。あぁぁ。。。これはもう恨み節に近い悲劇色じゃないか。打ちひしがれたポリーニ。そして、フッと沈静した音色に。自分を取り戻そうと一旦落ち着くポリーニ。
でもやはり恨みが…恨みがぁ…!
抑えきれない叫び
いや、落ち着くんだ
そう、落ち着いて考えようよ
いやでも、うわぁぁぁぁぁ!!!
この心の葛藤が繰り返される1楽章。
音のダイナミックスが変幻自在と言いますか、ガーン!!!と弾いたかと思ったら、スッとホロホロ優しくなる。極上の音色でこれをされるともうひれ伏すしかないっす…。
第二楽章
煽られるように雪崩れ込むように始まる2楽章。1楽章の恨み節を引き継いでいるかの如し。まだ怒ってるポリーニ。弱奏部分でまたもや気持ちを整理するポリーニ。ホロヴィッツのようなワルツ感、オシャレ感は無い。なにかを処理しているような音だ。理性的な弱奏。最初の強奏部分に戻ってくる所では、最初のような「煽り」というより、理詰めで追い詰められている気分になる。理論武装して詰め寄るポリーニ。
第三楽章
足をひきずって歩く
神様への率直な問いかけのような音
それは怒りなのかもしれない
「なぜなんですか」
「なぜこうなったんですか」
うん。ポリーニはずっと何かに怒っているようなんだよな。
そして弱奏部分
ハッと息をのんでしまうほど優しい音
そして少し寂しい
恋焦がれていたものへの
切なくピュアな思い
僕は、これが欲しかっただけなんだ
(心からポリーニを抱きしめてあげたくなる…)
遠くから忍び寄るように戻ってくる葬送行進曲のフレーズ
どんどん大きくなって大きくなって
出だしで聴いた時には「怒りに」にしか聞こえなかったけど
あの優しすぎる弱奏を聴いてしまった後には
ただの怒りには聞こえない。
第四楽章
間髪入れずに4楽章。何かが解体していくような感覚。崩壊というより瓦解。一つの大きな塊だったものが端からほどけていくようにバラバラになる。
ポリーニの演奏はこちら↓
マルタ・アルゲリッチ
彼女の名前はずーっと前から知っていました。風の噂で?その「人となり」も「演奏」もとても情熱的と言うか激情型だと聞いておりました。もしかしてヒステリックな演奏なんじゃないの?という勝手な思い込みで真剣に演奏を聴いたことがありませんでした。が、今回この曲で初めて彼女の演奏を聴いて「!!!!!」となった次第です(笑)。
第一楽章
疾風。疾風なんだけど、風の強さがクルクルと変わる。ただビュービュー吹く風じゃない。気が付くと、その風をもっと感じたくてジッと体を預けている自分がいる。冒頭のフレーズが戻ってくるあたりでふと気づく。
1秒も理性を感じさせる瞬間がない…。(汗)
ポリーニが気持ちを落ち着けていた弱奏部分でも、全然落ち着いてない。というか、アルゲリッチは怒ってもないし落ち着きもしない。アルゲリッチが弾いてるけど、弾いているのは人間じゃない、という感覚。
巫女体質と言いましょうか…。
なんか乗り移ってる…。
としか言いようがない。
なんかに乗り移られているアルゲリッチに好きなようにされてしまう私。強奏部分の激しさでワサワサ揺すぶられ、それとは裏腹に弱奏部分ではずっと優しく撫でまわされるような感覚。ヤバイ…。
第二楽章
やめて
と言っても、無理
押し寄せる押し寄せる押し寄せる
この脅迫のような詰め寄りをどう躱せるというのか
弱奏部分
耳元で囁かれ続ける
吐息
こちらの理性が吹っ飛ぶのも時間の問題です…
強奏に戻る
もう金縛り状態で動けない
これは…
上質な娼婦かなんかでしょうか…?
思い出すのは「ノルウェーの森」のワンシーン。ピアノの先生(女)が生徒の女の子に体を撫でまわされて、理性がふっとび、もういつものの日常生活は送れなくなる、ってなった所。多分、あの生徒は小さなアルゲリッチだったに違いない。先生は、彼女の演奏を聴いている時からゾクゾクしていたに違いないのです。
第三楽章
淡々と進む葬送行進曲
急に突き放されたかのような気持ちになる
自分の内面をクリアな鏡で見せつけられる
弱奏部分
女神から話しかけられているが如し
私と女神との二人だけの時間
もう全部どうでもいいから
どうか
どうか
あなたの元に
このまま…
どうかこのまま…
戻ってくる葬送行進曲
厳しさと優しさに翻弄されたまま
ただ
歩かねばならぬ道を歩いていく
どんどん高まる
もう後ろを振り返る事もできない
第四楽章
静かな4楽章
意識が混濁していて
周りがよく見えない
劇的な最後
心臓をひとつき
アルゲリッチの演奏はこちら↓
まとめ
本当に、3人とも全く違う景色を見せてくれる演奏だなーと思います。因みに聞く順番としては、ここにある通りホロヴィッツ→ポリーニ→アルゲリッチが良いと思います。アルゲリッチのあとにホロヴィッツを聴いたりすると、あれ?ってなると思いますのでご注意を。これは、あれですよ。ロマン派の萌え萌えのメンデルスゾーンとかチャイコフスキーのバイオリン協奏曲を聴いた後にベートーベンのバイオリン協奏曲を聴くと「あれ?」と一瞬つまらなく感じるみたいなもんです。←

アルゲリッチ、ヤバイです(笑)。これは翻弄される男が何人いてもおかしくないわ!